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観光の経済波及効果とは? ―「何人来たか」より「いくら残ったか」で考える観光政策

  • 2 日前
  • 読了時間: 5分

観光案内所のカウンターに「入込客数 過去最高」のポスターが貼られている。担当者としては誇らしい数字です。けれど、地元の旅館の女将さんと話すと、ぽつりとこう言われる


——「お客さんは増えたけど、うちはちっとも楽にならないねえ」。


この**「数字」と「実感」のズレこそ、今の観光政策が抱える最大の課題です。本記事では、観光を「人数」ではなくデータで考える観光のEBPM(根拠に基づく政策立案)**を、やさしく解説します。



観光-経済波及効果
観光-経済波及効果


この記事でわかること

  • なぜ「観光客数が増えても地域が豊かにならない」のか

  • 観光の成果を測る正しいものさし=経済波及効果と「お金の残り・漏れ」

  • 自分のまちの観光の"漏れ"を見える化する方法(産業連関表)

  • 今日から始められる「観光EBPMの3ステップ」



「過去最高の観光客数」は、本当に成果なのか?

入込客数は分かりやすい指標です。だからこそ、人数を増やすこと自体が目的化しがちです。しかし現場では、こんな声が絶えません。

  • 客数は増えたのに、地元事業者の手応えは薄い

  • 賑わってはいるが、まちにお金が落ちている実感がない

  • 繁忙期の混雑(オーバーツーリズム)で、住民の負担だけが増えた

つまり、「人数」と「地域が豊かになること」はイコールではないのです。大事なのは何人来たかではなく、そのお金がいくら地域に残ったかです。



観光のEBPMとは? ―「いくら残ったか」で測る

観光のEBPMとは、観光の成果を「何人来たか」ではなく「いくらのお金が、どれだけ地域に残ったか」という根拠(データ)で捉え、政策を立てる考え方です。見るべき数字は3つあります。

  1. 観光客が地域で使ったお金(観光消費額)

  2. その消費が地域の各産業へ広がった効果(経済波及効果)

  3. そのうち地域内に残った分と、外へ漏れた分

「客数」という一枚の写真ではなく、**お金が地域を巡る"動画"**で観光を捉える。これが観光EBPMの出発点です。



なぜ観光のお金は、地域に残らないのか?

地域経済はよく、底に穴の空いたバケツにたとえられます(漏れバケツ)。観光で外からお金を注いでも、穴から漏れていては地域には残りません。観光のお金は、たとえばこんな経路で外へ流れ出ます。

  • 宿泊予約サイト(OTA)に支払う手数料

  • ホテル・旅館が食材や備品を域外から仕入れている

  • 土産物が地元産ではなく、外から仕入れたものである分

  • 設備・サービスの域外発注

象徴的な例があります。島根県の海士町(あまちょう)では、ホテルや民宿のリネン(シーツ等)のクリーニングを島外に発注しており、島全体で年間約2,500万円が島の外へ流出していました。観光で稼いだお金が、見えないところでこぼれ落ちていたのです。

海士町はこの"漏れ"に気づき、島内でクリーニングを担う会社を立ち上げて流出を回避しました。お金を「ひっぱってくる」だけでなく、入ったお金を地域内で循環させる——これが観光EBPMの打ち手です。



「漏れ」は、どうすれば見えるのか? ― 産業連関表で観光 経済波及効果を測る

お金の流れを見える化する道具が、**産業連関表(さんぎょうれんかんひょう)**です。地域単位の産業連関表があれば、

  1. 観光消費が地域の各産業にどれだけ波及するか(経済波及効果)

  2. そのうち、いくらが地域内に残り、いくらが外へ漏れているか

  3. どの品目・どの取引で漏れが大きいか(漏れ穴分析)

——が数字で分かります。「どの観光施策に投資すれば、まちにお金が残るか」を、イメージではなく根拠で議論できるようになります。

注意したいのは、産業連関表は作り方で精度が大きく変わることです。県や国の数字を労働者数などで割り振った「案分推計」では、自分のまちの観光の実態はつかめません。事業者調査に基づく実態に近い表こそが、観光EBPMの土台になります。

観光EBPMを始める3ステップ

大規模な調査からいきなり始める必要はありません。次の順で十分です。

  1. 体感する:まず「自分のまちの観光のお金は、どれだけ残り・漏れているか」を、ざっくり掴む(後述のデモが便利です)

  2. 実態を測る:事業者調査に基づく産業連関表で、漏れの大きい品目・取引を特定する(漏れ穴分析)

  3. 打ち手を決める:漏れの大きいところから、域内調達への切り替えや域内事業化を検討する(海士町のリネン会社が好例)



よくある質問(FAQ)

Q. 観光におけるEBPMとは何ですか?A. 観光政策を「勘」や「客数」ではなく、観光消費額・経済波及効果・地域への残存といったデータ(根拠)に基づいて立案・評価する考え方です。

Q. 経済波及効果と入込客数は何が違うのですか?A. 入込客数は「何人来たか」、経済波及効果は「その消費が地域経済をいくら動かしたか」を示します。豊かさに直結するのは後者です。

Q. 小さな自治体でも取り組めますか?A. はい。むしろ規模が小さいほどお金の流れを把握しやすく、打ち手の効果も見えやすい傾向があります。



まとめ

  • 観光の成果は「人数」ではなく「地域に残ったお金」で測る

  • 観光のお金は宿泊・飲食・土産・設備などから域外へ漏れる

  • 産業連関表で漏れを見える化し、漏れの大きいところから塞ぐ

  • まずは"体感"から、小さく始められる

観光客数の先にある「地域に残るお金」を見たとき、観光政策は本当の意味で地域を豊かにする力を持ちます。



まず「体験」から ― あなたのまちの観光の"漏れ"を見る

私たちが提供する IREAM(対話型地域経済分析モデル)の体験版では、観光で地域に入ったお金が「どれだけ残り・どれだけ漏れるか(漏れバケツ)」を、ブラウザでそのまま触って確かめられます(長野県白馬村の観光経済循環をモデルにした体験版)。


「うちのまちの観光は、お金が残っているのだろうか?」——そう感じたら、まずはご相談ください。




執筆者

株式会社Green Guardian — 代表は産業連関表の研究で博士号(環境情報学)を取得し、下川町・南小国町・気仙沼市・陸前高田市・宝達志水町・白馬村・美瑛町・宮古島市など全国で地域の産業連関表を作成。サステナビリティの第一人者・枝廣淳子氏(有限会社イーズ)と連携し、岩波新書『地元経済を創りなおす』などで紹介された手法を、実務で形にしています。

 
 
 

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